【いじめ問題と弁護士】いじめ被害への対応と、子どもが加害者になってしまった場合の対応などを弁護士が解説
いじめは、被害者に深刻な影響を及ぼす重大な問題です。適切な対応をとらなければ、精神的な負担が増し、最悪の場合、自殺などの悲劇を招くこともあります。
いじめを受けた際の対処法や、加害者側として求められる対応、法的措置の方法について、詳しく解説します。
いじめの定義と関連法
いじめは、子どもの健全な成長や人格形成に深刻な影響を与える問題です。そのため、社会全体で適切に対応するために「いじめ防止対策推進法」が制定されました。この法律に基づき、いじめの定義や学校・行政の対応が定められています。
いじめ防止対策推進法とは
いじめ防止対策推進法は、学校で発生するいじめに対し、社会全体で防止・対応するための基本方針を定めた法律です。2013年6月に制定され、同年9月に施行されました。
この法律により、学校や自治体などに以下のような取り組みが義務付けられています。
- 学校・地方自治体の対策義務:各学校や自治体がいじめ防止の基本方針を策定。
- いじめ対策組織の設置:すべての学校に、いじめ対応のための組織を設置する義務がある。
- 重大事態への対応:いじめによる自殺や長期不登校などの「重大事態」が発生した場合、学校や教育委員会が調査を行い、保護者へ報告する。
この法律のもと、学校や地域が協力しながら、いじめの防止・早期発見・対応に取り組むことが求められています
いじめ防止対策推進法における「いじめ」とは
いじめ防止対策推進法では、「いじめ」を以下のように定義しています。
「児童生徒が在籍する学校において、または学校外で、児童生徒が心理的または物理的な影響を受け、心身の苦痛を感じる行為」(インターネット上でのいじめも含む)
この定義では、「被害者が苦痛を感じるかどうか」が重要なポイントとなり、加害者の意図は関係ありません。
いじめが起こる場所に制限はない
かつては、いじめは学校や放課後の遊び場で発生するものと考えられていました。しかし、現在ではSNSやインターネット上での誹謗中傷、悪質な動画拡散など、オンライン上でのいじめも深刻な問題となっています。
そのため、いじめ防止対策推進法では、いじめが起こる場所を限定せず、あらゆる場面でのいじめ行為を対象とすると明確に示しています。
いじめの加害者・被害者の範囲
法律上、いじめの加害者・被害者の双方が「児童生徒」である場合に限り、いじめ防止対策推進法が適用されます。そのため、教師や学校職員によるハラスメント、または児童生徒が成人を対象に行う行為は、この法律の定める「いじめ」には該当しません。
いじめ被害にあったら早めの対応が重要
いじめを受けたら、できるだけ早く対応することが大切です。いじめが続くと、精神的な負担が積み重なり、うつ病や不登校、さらには社会からの孤立につながる可能性があります。最悪の場合、自殺に至るケースもあるため、放置せず迅速に対処することが必要です。
いじめは単なる嫌がらせではなく、人権を侵害する重大な行為です。被害者は加害者やその親、学校、教育委員会に対して損害賠償を請求できる場合があります。加害者が行った行為が暴力や金銭の要求、物を壊すといったものであれば、刑事告訴も可能です。
いじめを放置すると被害が拡大し、解決が難しくなります。学校への相談だけで解決しない場合は、法的手段を検討することも重要です。加害者や学校に責任を求めることで、被害者の権利を守り、今後の被害を防ぐことにつながります。
いじめ被害に弁護士が対応するメリット
いじめ問題は感情的になりやすく、適切な対処が難しい場合があります。弁護士に依頼することで、法的に有効な解決策をとることが可能です。
ここでは、弁護士に相談する3つのメリットを紹介します。
適切な証拠を集めやすい
いじめの被害を証明するには、明確な証拠が必要です。しかし、被害者本人や保護者だけで証拠を集めるのは困難なことが多いのが現状です。弁護士は、いじめの状況や加害者の行動を分析し、どのような証拠が必要かを判断できます。
加害者や学校との交渉を任せられる
いじめの問題では、加害者本人やその保護者、学校側と話し合いをする必要があります。しかし、被害を受けた側の感情が高ぶり、冷静に対応できないことも少なくありません。
弁護士が介入することで、法的観点から冷静に交渉を進められ、トラブルの長期化や複雑化を防ぐことができます。また、弁護士が窓口となるため、被害者や保護者が直接加害者と向き合う必要がなくなる点も大きなメリットです。
さらに、調停や裁判に発展した場合も弁護士が対応するため、手続きの負担を軽減できるという利点があります。
損害賠償請求や刑事告訴が可能
いじめによる精神的苦痛や身体的被害には、法的な責任を追及できます。しかし、慰謝料や損害賠償を適切に請求するには、法的な知識が必要です。
弁護士に依頼すると、いじめの内容や被害状況を考慮し、適正な賠償額を算定したうえで請求できます。また、暴力や脅迫などの犯罪行為に該当する場合は、弁護士が刑事告訴の手続きもサポートしてくれます。
弁護士が介入した場合の流れ
ここでは、弁護士がどのようにいじめ問題に対応し、解決へと導くのか、その流れを説明します。
1. 学校にいじめの調査を申し入れる
まず、弁護士は学校に対して、いじめの実態を調査するよう求めます。いじめ防止対策推進法では、学校は調査の申し入れを受けた場合、迅速に対応する義務があります。
しかし、調査には時間がかかることが多く、その間もいじめが続く可能性があります。そのため、弁護士は「見守り教員の配置」や「オンライン授業の活用」など、子どもが安全に過ごせる環境づくりを学校側に求めることもあります。
2. 加害者や学校への法的対応(内容証明郵便・示談交渉)
次に、加害者や学校に対して責任を追及します。その際、弁護士名義の内容証明郵便を送付します。これは、「いつ・誰が・誰に・どのような内容の通知を送ったのか」を公式に記録する手段であり、加害者側に対する正式な請求の証拠となります。
内容証明郵便には、いじめの即時停止、損害賠償請求、謝罪の要求などを記載します。
相手が内容証明郵便に応じた場合は、示談交渉へと進みます。弁護士が交渉を行い、合意に達すれば示談書を作成し、法的に有効な解決策として締結します。
しかし、相手が通知を無視したり、不誠実な対応を取ったりする場合は、さらなる法的措置が必要になります。
3. 調停(裁判所を通じた話し合い)
示談が成立しない場合、弁護士は民事調停を申し立てます。調停では、裁判所が間に入り、双方が納得できる解決策を探ります。話し合いがまとまれば、調停調書が作成され、法的な拘束力が生じます。
ただし、調停はあくまで任意の手続きであり、相手が出席しないこともあります。その場合、最終的には訴訟に移行することになります。
4. 裁判(訴訟による強制的な解決)
調停が不成立、または相手が応じない場合、訴訟を起こして裁判で解決を目指します。裁判では、弁護士が証拠を提出し、加害者の責任を追及します。
裁判官が最終的な判断を下すため、相手が責任を否定している場合でも、法的に白黒をつけることができるのが大きなメリットです。
子どもがいじめの加害者になってしまった場合の対応
子どもがいじめの加害者であることが発覚したとき、親としてどのように対応すべきかは非常に重要です。まずは落ち着いて事実を確認し、適切な対処を取ることで、子どもを守りながら円満な解決を目指しましょう。
親がすべきこと
子どもがいじめをしたと指摘されたら、まずは冷静に状況を把握することが大切です。学校や被害者側の話だけで判断せず、子どもの言い分も聞いたうえで、何があったのか客観的に確認しましょう。
ただし、無理にかばうのではなく、事実が明らかになった場合は子どもに責任を理解させ、反省を促すことも必要です。頭ごなしに叱るのではなく、なぜその行動を取ったのかを聞き、いじめが人を傷つける行為であることを認識させることが重要です。
また、学校との話し合いでは、感情的にならず、できるだけ冷静に対応しましょう。学校は中立の立場であるべきですが、被害者側の話を先に聞いているため、加害者に対して厳しい姿勢を取ることもあります。事実関係に食い違いがある場合は、学校側に再調査を求めることも必要です。
被害者への謝罪が必要な場合でも、当事者同士だけで行うのではなく、学校の先生や弁護士など第三者に同席してもらい、公正な場で行うことが望ましいです。これにより、誤解や新たなトラブルを防ぐことができます。
弁護士が介入したほうがよいケース
いじめの問題が大きくなると、学校や被害者側との交渉が難航し、法的な対応が必要になることがあります。 こうした場合、弁護士に依頼することで、冷静かつ適切な対応が可能になります。以下のようなケースでは、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
被害者側の弁護士から内容証明が届いた
被害者側の弁護士から内容証明郵便が届いた場合は、慎重な対応が求められます。内容証明には、損害賠償請求や謝罪の要求が記載されていることが多く、対応を誤ると不利な立場に追い込まれる可能性があります。弁護士に相談し、どのように対応すべきかを判断することが重要です。
学校側から厳しい処分を求められている
学校が子どもに対して停学・退学などの処分を検討している場合、その処分が適正かどうかを確認する必要があります。学校側の
対応が一方的だったり、十分な調査が行われていなかったりする場合、不当な処分と判断されることもあります。弁護士を通じて学校側と交渉することで、処分の軽減や撤回を求めることができます。
被害者側が和解に応じない
被害者側が謝罪を受け入れず、和解に応じる意思がない場合、訴訟に発展するリスクがあります。早い段階で弁護士に相談し、適切な対応を取ることで、解決の糸口を見つけることができる可能性があります。
被害者側が警察に被害届を出した
いじめの内容が暴力や恐喝などの刑事事件に該当する場合、被害者側が警察に被害届や告訴状を提出するケースがあります。この場合、子どもが刑事責任を問われる可能性があるため、弁護士のサポートが必要です。特に、加害者が未成年の場合、適切な対応をしなければ将来に影響を及ぼすこともあるため、早めの相談が重要です。