親族による年金や預金の横領被害の対処。罪に問えるのか?

高齢者の預金通帳を管理する名目で、親族が通帳を預かり、お金を引き出して私的に使ってしまうという横領行為がしばしば起こります。
このような親族による横領行為に対して、民事上・刑事上、法的責任を問うことはできるのでしょうか。
今回はこの問題について解説していきます。

1親族による年金や預金の横領被害が発覚した場合に取り戻す方法

親族が年金や預金を横領していたことが発覚した場合、これを取り戻す方法は、被害者の生前に発覚した場合と死亡した後に発覚した場合で異なります。以下、それぞれに分けて解説します。

1-1 被害者の生前に発覚した場合

横領が被害者の生前に発覚した場合、被害者本人に十分な判断能力があれば、自身で返還交渉をしたり、弁護士にこれを依頼して対応してもらうこととなります。
任意の交渉で功を奏しない場合には、民事調停や民事訴訟を起こして返還を求めます。
これに対し、被害者本人の判断能力が、認知症や精神障害などのために不十分な場合には、成年後見制度を利用する方法が適しています。
具体的には、被害者の成年後見の申立てを行い、成年後見人を選任してもらって、その成年後見人に加害者に対する返還交渉や民事調停、民事訴訟などの対応をしてもらいます。
成年後見人には家族や親族でもなれますが、親族に年金などを横領され返還を求めるようなケースでは、多くの場合、弁護士などの専門家が選任されます。
成年後見制度では、被後見人の財産管理権限を後見人が取得します。
後見人が選任されれば、被害者の預金通帳などが後見人の手元に渡るため、被害が発覚しやすくなり、責任追及が容易になります。

1-2 被害者の死亡後に発覚した場合

被害者の死亡後に親族による横領が発覚した場合、被害者本人の損害賠償請求権は、相続人に法定相続分に応じて相続されます。
そのため、相続人が複数いる場合には、各相続人が自分の法定相続分に応じて、横領をした親族に対して損害賠償請求をすることができます。
しかし、親族同士の交渉は感情が先に立ちうまく行かないことがままあります。そのため、弁護士に依頼をして対応してもらう方が有効なことも少なくありません。

2 刑事処罰に問えるのか?

横領は犯罪であり、本来であれば、5年以下の懲役刑に該当します(刑法252条1項)。
しかし、加害者と被害者が親族関係にある場合には、特例(親族相盗例)が設けられています。
まず、配偶者、直系血族、同居の親族の間で横領が行われた場合には、刑が免除されることとなっています。
上記以外の親族の間で横領が行われた場合には、被害者による告訴がなければ加害者を起訴することができません。
これは、家庭内の問題は法が関与せずに家庭内で解決すべきであるという「法は家庭にい入らず」との考え方を元に設けられた制度です。
そのため、横領した親族が配偶者や親あるいは子などの場合やその他同居している親族の場合は処罰してもらうことはできません。
兄弟や甥姪、また従兄弟などの少し血縁が遠い親族におる横領の場合には、警察や検察といった捜査機関に告訴状を提出しなければ、処罰してもらうことができません。

3 成年後見人になっている親族の横領の場合は?

成年後見人になっている親族が、その管理権を濫用して横領をした場合、損害賠償責任や刑事責任はどうなるでしょうか。

3-1 被害金の回収について

成年後見人による横領が発覚した場合、たとえそれが親族であったとしても、その後見人は裁判所によって解任され、新たに選任される成年後見人によって損害賠償責任が追及されることとなります。
このようなケースにおいては、多くの場合、新たに選任される成年後見人は弁護士などの専門家になります。
新たに選任された成年後見人は、最初は交渉による解決を目指して、元の成年後見人と協議を試みますが、これが功を奏しなかった場合には、民事調停や民事訴訟を起こし、回収を目指すこととなります。
調停が成立したり新たな成年後見人が勝訴判決を得たにもかかわらず、元の成年後見人が支払いをしない場合には、財産(不動産屋、預貯金、給与など)に対して強制執行を行い、損害賠償金を回収します。
成年後見人になった親族が横領していることが発覚した場合には、他の相続人は、さらなる被害の拡大を防ぎ、被害金を回収するために、管轄の家庭裁判所に対して解任審判の申立てをすることが強く望まれます。

3-2 刑事罰について

成年後見人になっている親族が被後見人の年金や預金を横領した場合にも、2に記載した特例は適用されるのかが問題となります。
この点については、未成年後見人(未成年者に親権者がいなくなった場合に選任される後見人)が横領をしていたケースにおいて、最高裁が、「未成年後見人は未成年者本人と親族関係にあるかどうかの区別なく、等しく未成年者本人のためにその財産を誠実に管理すべき法律上の義務を負っている」ことから、「未成年後見人の後見事務は公的性格を有する」として、上記の特例の適用を否定した判決があります(最高裁第一小法廷平成20年2月18日判決)。
この判決の趣旨は、成年後見人に当てはめるものであるため、成年後見人になっている親族の横領についても、上記の特例の適用はなく、刑事責任を負うことになるといえます。

4 相続時開始後に年金や預金の横領を補填する方法

相続開始後に年金や預金の横領を補填する方法は、ケースに応じて複数あります。
1-2でも述べたとおり、相続開始後に横領が発覚した場合は、理論的には、各相続人が法定相続分に応じて、加害者に対して損害賠償請求権を取得します。
そのため、各相続人が横領の加害者に対して、法定相続分の金額に相当した損害賠償責任を追及するのが基本となります。
しかし、横領をしていた加害者が相続人であることも少なくありません。そして、横領した場合でも、加害者は相続権を失いません。
加害者から各相続人に損害賠償金を支払い、相続分に応じて遺産分割を行うというのは、とても煩雑です。
そこで、横領の加害者が相続人だった場合には、遺産分割に当たり、横領した金額を相続分から差し引いて解決するという方法を採ることも少なくありません。

5 まとめ

親族による年金や預金の横領は、被害者が高齢である場合に行われていることが多く、親族の間で処理してしまおうとするがために、正当な被害回復が図られないことも少なくありません。
このような横領行為に対して毅然とした法的措置を採らないと、横領行為が反復継続され、被害はどんどん膨らんでいきます。結局は加害者が多大な利益を取得し、他の相続人が正当な相続分を得られないことになりかねません。
そのため、親族による横領には、弁護士を介入させて厳格な対応をすることが必要といえます。
被害者に判断能力がない場合には、成年後見人就任に時間がかかるため、早急に対応する必要があります。
当事務所は、親族間の横領問題に精通しており、迅速に交渉を行ったり、法的措置を採ることができます。
親族による横領の被害に遭った方、横領行為を知りお悩みの方は、是非当事務所にお気軽にご相談ください。お待ちしております。

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