交通事故の身代わりや替え玉はどんな罪?
以前からしばしば問題になっていましたが、最近、運送会社の身代わり(替え玉)事件で「組織内で横行していた」という非常に悪質な状態だったことが大きくニュースで取り上げられています。
身代わり、替え玉はどのような罪になるのでしょうか。
夫が捕まると生活に支障が…ということで、妻が出頭すると…
交通事故犯人の替え玉、身代わりとは
実際の事故の加害者の代わりに犯人を装って出頭することを、マスコミ等では「替え玉事故」と言います。
飲酒運転や無免許運転をしていた場合や運転免許の点数が心配な場合など、他人に責任を負わせて運転者が責任を免れようとするのです。
ところが、事情聴取などをしているうちに「どうもおかしいな」となり、替え玉だということがバレてしまうことになります。
替え玉がよく行われるケース
替え玉が行われやすいのは、以下のような場合です。
- 運転者が飲酒運転していた
- 運転者が免停中などで無免許運転していた
- 運転者の社会的地位が高く、スキャンダルを防ぎたい
- 運転免許の停止や取消を防ぎたい
会社の上司が部下へ替え玉になるよう命令することもあれば、夫が妻に替え玉を依頼するケースもあります。
飲酒運転や無免許で逮捕された場合の罪
飲酒運転や無免許運転で逮捕されると、非常に重い罪を科されます。
飲酒運転
酒気帯び運転なら3年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑
酒酔い運転なら5年以下の懲役または100万円以下の罰金刑
無免許運転
3年以下の懲役または50万円以下の罰金刑
自動車運転処罰法違反
交通事故を起こしたことにより、過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪が成立します。
過失運転致死傷罪
「7年以下の懲役又は禁固もしくは100万円以下の罰金刑」
危険運転致傷罪
「15年以下の懲役刑」
危険運転致死罪
「1年以上20年以下の懲役刑」
無免許運転をしていると上記の刑罰が加重され、飲酒運転をして交通事故を起こした場合には過失運転致傷でも「12年以下の懲役刑」、致死の場合「15年以下の懲役刑」となり罪が重くなります。
このように交通事故の犯人には非常に重い刑罰が適用されるので、飲酒運転や無免許運転の場合などには特に替え玉を利用しようとするのです。
替え玉はどんな罪に問われるか
替え玉が捜査機関に判明した場合、替え玉になった当人は実際には事故を起こしていないので交通事故の罪に問われません。実際に交通事故を起こした本人が有罪となります。
ただし替え玉犯人は「犯人隠避罪(はんにんいんぴざい)」という罪になります。刑法103条に以下のように定められており、刑事責任を問われます。
罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。(刑法103条)
替え玉になった人へ与えられる具体的な刑罰の内容は、以下のような事情によって異なってきます。
- 事故の規模・重大さ
- 進んで替え玉になったのか、強要されてやむなくなったのか
- 本人と替え玉の関係性
裁判で嘘をつくと偽証罪にも
替え玉が発覚せずに事故が裁判になってしまった際、証人として嘘の証言をすれば「偽証罪」になります(刑法169条)。たとえば替え玉になった人の裁判に真犯人(運転者)が出廷し、「私は横に乗っていて…」などと嘘の証言をした場合などです。
法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、3か月以上10年以下の懲役に処する。
(刑法169条)
偽証罪の刑罰は3か月以上10年以下の懲役刑とされています。
アルコール等発覚免脱罪
事故を起こした本人が飲酒していたので発覚を恐れて他の人を替え玉にした場合、自動車運転処罰法の「アルコール等影響発覚免脱罪」が成立する可能性もあります。
アルコール等影響発覚免脱罪とは、アルコールによる影響で交通事故を起こしたときにその責任を免れるため、一時的に逃げたりさらにアルコールをあおったりする水を大量に飲んだりする罪です。
飲酒運転の罪を免れるために他人に罪を着せて逃れた場合にもアルコールの影響を免れようとすることに変わりないので、この罪が成立する可能性があります。
刑罰は12年以下の懲役刑です(自動車運転処罰法4条)。
教唆犯が成立する可能性
交通事故が発生したとき、第三者が「身代わりを立てた方が良いのでは?」などと勧めたり働きかけたりした場合、その第三者が「犯人隠避罪の教唆犯」となり罪に問われる場合があります。教唆犯に与えられる刑罰は、主犯と同じ重いものです。
替え玉で成立する犯罪まとめ
以上のように、交通事故で替え玉をすると以下のような犯罪が成立する可能性があります。
- 事故を起こした真犯人は偽証罪
- 替え玉になった人は道路交通法違反、犯人隠避罪
- 替え玉を勧めた人は犯人隠避罪の教唆犯
替え玉と保険
交通事故で替え玉をすると、自動車保険の利用が困難となる可能性もあります。
まず替え玉のケースでも「自賠責保険」は適用されます。問題となるのは「任意保険」です。
任意保険との約款では、被保険者は交通事故を起こしたときに「すぐに保険会社へ報告しなければならない」と定められています。もちろん、この報告は「真実の報告」を前提としており、虚偽の報告をしてはならないことは明らかです。
虚偽の報告によって保険金を受け取ろうとすると「詐欺」になる可能性もあります。
替え玉犯人による保険会社への虚偽報告が発覚すると、保険金支払いを拒否されて事故を起こした本人が被害者に対する賠償金を自己負担しなければならない可能性が高くなります。
また保険金詐欺が成立し、詐欺罪の責任を問われるリスクも発生します。
詐欺罪の刑罰は10年以下の懲役刑です(刑法246条)。
交通事故で困ったときには弁護士に相談を
替え玉は悪質な犯罪です。ニュースなどからも分かりますが、組織ぐるみで行っていると、処罰対象者が増えていくケースも多々あります。
茨城県全域で活動する法律事務所DUONは、これまで多くの交通事故の問題に携わり解決して参りましたので、お困りの方はご遠慮なくご連絡ください。初回相談料は無料とさせていただいております。