法人破産すると経営者はどうなる?会社員の自己破産との違いについて弁護士が解説
株式会社などの法人が破産したら、代表者個人へどういった影響が及ぶのでしょうか?
会社が破産しても、必ずしも代表者が破産しなければならないわけではありません。
ただし現実には代表者も一緒に破産するケースが多く、代表者の立場や人生にも大きな影響が及びます。
法人経営者の個人破産では一般の会社員などの破産との違いもあるので、両者の違いについても把握しておきましょう。
今回は法人が破産したときの経営者への影響について、弁護士が解説します。
経営している会社の資金繰りや資産状況が悪化している方はぜひ参考にしてみてください。
1.法人が破産しても経営者が破産するとは限らない
「株式会社などの法人が破産したら、代表者も一緒に破産するものだ」と考えている方が多数おられます。
しかし法律上、必ずしもそのようにはなりません。法人と個人はあくまで別人格として扱われるからです。
「経営している会社のみを破産させ、代表者は破産しない」という選択肢もありえます。
その場合、代表者の個人資産への影響はありません。
ただし現実としては、会社が破産すると代表者も一緒に破産するケースがほとんどといってよいでしょう。
2.法人破産によって経営者が破産すべき状況やパターン
なぜ会社が破産すると経営者も破産するのか、よくあるパターンをみてみましょう。
2-1.代表者が会社の連帯保証人になっている
非常に多いのが、代表者が会社借り入れの連帯保証人になっているパターンです。
この場合、会社が破産すると代表者個人が会社の負債を払わねばなりません。
しかし会社借り入れの金額は数千万円以上になるケースが多く、代表者個人にはとても払えないケースが多数です。
連帯保証債務を免責してもらうには、代表者個人も破産しなければなりません。
よって法人が破産を申し立てる際に代表者も同時に破産を申し立てて解決を目指します。
2-2.代表者が個人的な借り入れによって会社を回していた
会社経営をしている方は、個人名義で運転資金を借り入れるケースも多々あります。
会社の資金繰りが悪化してきたとき、代表者がカードローンや不動産担保ローンなどで借り入れをして会社へ資金を投入するのです。
この場合、会社が倒産したらお金は返ってきません。代表者も返済ができなくなるので破産するしかなくなります。
このように、代表者と会社の資金繰りには密接な関係があるので、会社が破産すると代表者も結局は破産しなければならないケースが多いのです。
2-3.代表者が破産しなくて良い状況とは
会社と代表者の会計が完全に別になっていて、会社が破産しても代表者に何の影響も及ばない場合、代表者個人が破産する必要はありません。
たとえば代表者が会社の連帯保証人になっておらず、個人名義での借り入れも一切していない場合には、会社のみ破産させて解決できる可能性があります。
2-4.自宅に抵当権を設定している場合
代表者の方は、自宅を会社借入の抵当に入れるケースもよくあります。
その場合、会社が破産すると自宅不動産はなくなりますが、代表者が個人的に借り入れや連帯保証していなければ破産しなくてもかまいません。
経営会社を破産させたいとき、ご自身が破産しなければならないかどうかわからなければ一度弁護士へ相談してみましょう。
3.経営者が破産する場合の影響
経営者が破産すると生活や家族などへどういった影響が及ぶのか、みてみましょう。
3-1.ブラックリスト状態になる
経営者に限らず、個人が破産するといわゆる「ブラックリスト」状態になります。
ブラックリスト状態とは、個人信用情報に事故情報が登録されてローンやクレジットカードを利用できなくなった状態です。
代表者の方が個人破産するとブラックリストの影響が及び、破産後5~10年程度の期間はキャッシングやクレジットカード、各種ローンを利用できなくなると考えましょう。
利用できなくなる借り入れや負債の例
- 消費者金融
- クレジットカードのキャッシング
- 銀行カードローン
- 住宅ローン
- 車のローン
- クレジットカードの発行や利用
- 他人の連帯保証人
- 各種の割賦返済
- スマホ端末の分割払い
クレジットカードの家族カードを発行していた場合、家族カードも使えなくなってしまいます。
一方で、経営者が破産しても家族はブラックリスト状態になりません。家族名義のカードはそのまま使えますし、自己破産後も家族名義のローンであれば組めます。
ブラックリスト状態によって家族に迷惑をかけるかどうかについては、ご家族に借り入れに足りる信用があるかどうかでも大きく変わってくるでしょう。
3-2.家族が保証人になっている場合には迷惑をかける
法人や代表者が借り入れをするとき、家族に連帯保証人になってもらうケースも珍しくありません。たとえば家族が専務などの会社役員になっていたら、会社借り入れの際に家族に連帯保証人を依頼する場合もあるでしょう。代表者が個人名で借り入れをするときに、家族に連帯保証人になってもらう状況も考えられます。
そういったケースで代表者個人が破産すると、家族も破産しなければなりません。
3-3.代表は退任する
経営者が個人破産する場合、会社の代表者の立場は退任となります。
引き続いて破産手続きの中で会社資産の換価や債権者への配当をしなければなりませんが、こういった対応については破産管財人が引き継ぎます。
つまり経営者が破産すると、無職になってしまうと考えましょう。
ただし就職は基本的に自由なので、破産手続開始決定前や手続き決定後などに就職活動を行って仕事に就くようおすすめします。
就職の際、資格制限を受けるケースについては次にご説明します。
3-4.資格制限を受ける
個人破産する経営者が再就職するとき「資格制限」に注意しなければなりません。
資格制限とは、破産手続き中に一定の職業や資格が制限されることを言います。
破産手続開始決定時から免責決定が確定するまでの間、該当する仕事には就けません。
たとえば以下のような仕事が資格制限の対象になります。
- 警備員
- 生命保険外交員
- 弁護士、司法書士、税理士、公認会計士、行政書士、宅建士などの士業
- 騎手
- 調教師
- 貸金業、質屋
他にもいろいろな資格が制限されます。対象となる資格を活かして再就職を検討するなら、免責決定が確定するまで待たねばなりません。
3-5.財産がなくなる
代表者が破産すると、ほとんどの財産がなくなります。
自己破産するときには、生活に必要な最低限の資産を残してその他はすべて債権者へ配当しなければならないからです。
たとえば以下のような個人資産がなくなると考えましょう。
- 預貯金
- 保険
- 不動産(自宅や投資用物件など)
- 車(おおむね20万円以上の価値のあるもの)
- 各種の出資金
- 積立金
- 株式や投資信託
ただし代表者が破産しても家族名義の資産には影響がありません。たとえば自宅が家族名義であれば、家を失わずに済みます。
財産隠しをしてはならない
破産前に財産を失いたくないからといって資産を家族名義に変えてはなりません。そのようなことをすると、管財人から「否認」されて無効になる可能性が濃厚だからです。また免責不許可事由となるので、破産免責を受けられなくなるリスクも発生します。
悪質な場合には「詐欺破産罪」という犯罪が成立してしまう可能性もあります。
個人破産するなら、財産を失うのはやむを得ないと考えてください。なお生活に必要な最低限の資産(およそ100万円程度)は手元に残せます。
3-6.官報公告される
代表者が破産すると、政府の発行する「官報」という機関紙に「官報公告」をされます。官報公告とは、官報に氏名や住所などの破産情報が掲載されることです。
ネットや紙面などで一般の方でも官報を閲覧できます。
ただ、「閲覧できる」というだけで実際に購読して破産者情報をくまなくチェックしている人は少数ですし、そもそも代表者が破産するときに周囲に秘密にするのは困難でしょう。
官報公告を過剰に気にする必要はないと考えられます。
3-7.管財人の業務に協力しなければならない
会社の代表者が破産するときには、管財事件になります。
破産管財人がついてさまざまな調査を行うので、代表者としても協力しなければなりません。
破産管財人や裁判所の業務や調査に協力しなければ「免責不許可事由」となって免責を受けられなくなる可能性もあるので、くれぐれも誠実に対応しましょう。
3-8.非免責債権が残る
代表者が個人破産する際には「非免責債権」にも注意が必要です。
非免責債権とは、免責対象にならない負債です。
たとえば以下のようなものが非免責債権となります。
- 税金や保険料
- 罰金
- 養育費や婚姻費用
- 一部の損害賠償請求権
- 債権者隠しをした対象の債権者
特に税金や保険料を滞納していた方は、破産後も残るので支払いをしなければなりません。
支払えない場合、所轄庁と個別交渉が必要となります。
4.会社員の破産との違い
以下では会社員と法人代表者の破産の違いをみていきます。
4-1.職を失うかどうか
会社員の場合、自己破産しても職を失うことは基本的にありません。一般的に、破産は解雇理由にならないためです。
一方、会社経営者の場合にはほぼ確実に職を失うでしょう。就職活動をして収入を得る方法を考える必要があります。
4-2.家族に秘密にするのは難しい
会社員の場合、家族に秘密にしたまま破産する方が少なくありません。
同時廃止が選択されると財産にも影響がなく、簡単に終わることなどが影響しています。
法人経営者の場合には家族に秘密にしたまま破産するのは困難でしょう。
4-3.管財事件になる
会社員の場合、財産がほとんどなければ「同時廃止」が選択されて簡易な手続きで自己破産が進められるケースも多数あります。
法人代表者が法人と同時に破産する場合にはほとんど必ず管財事件となるので、同時廃止はほぼ適用されないと考えましょう。
4-4.税金の支払いが残るケースも多い
法人代表者が税金を払っていなかった場合、破産後も支払いが必要です。
払えなくて困ってしまう方も少なくありません。
会社員の場合には未払い税や保険料はほとんどないので、こういった悩みを抱える方は少数です。
5.法人代表者が破産した後の人生のご相談は弁護士へ
法人代表者が破産すると、再就職やブラックリスト問題、滞納税の支払いなどの各種の問題に対応しなければなりません。DUONの弁護士がご相談に応じますので、お困りの方はお気軽にご相談ください。
関連コラム