【亡くなった人(故人)の債務整理】借金を引き継ぐ場合・相続放棄や限定承認する場合について解説
亡くなった人に借金があった場合、それらを相続人が引き継いで、全て支払わなければならないのでしょうか。
もしそうだとすれば、借金が高額だった場合には、相続人が貧困に陥るリスクもあります。
実は、このようなリスクは回避することが可能です。
今回は、亡くなった人に借金があった場合の相続の問題について広く解説していきます。
1 亡くなった人(被相続人)に借金がある場合の原則
相続とは、法律で定められた相続人が、亡くなった人の財産や債務を全て引き継ぐことを指します。
預貯金や不動産などのプラスの財産のみではなく、マイナスの財産である借金も相続の対象となります。
そのため、亡くなった人に借金がある場合には、原則として相続人がこれを引き継ぐこととなります。
2 相続人が借金を引き継ぐことになった場合
では、相続人が借金を引き継ぐこととなった場合、どのような対応をすることとなるでしょうか。
2-1 相続人がひとりの場合
相続人がひとりの場合は、相続人の債務を他の財産とともにすべて引き継ぐこととなります。そのため、借金については、相続後の支払いをしていかなければなりません。
債務額が預貯金などのプラスの財産の総額を超える場合には、相続財産以外の自身の財産から支払いをしていくことが必要となります。
2-2 相続人が複数の場合
相続人が複数の場合には、法律で定められた相続分に応じて借金を引き継ぐこととなります。
参考まで、各相続人の法定相続分は以下のとおりです。
なお、配偶者は常に相続人となり、その他の相続人の相続順位は、第1順位が子、第2順位が直系尊属(被相続人に親等が近い順)、第3順位が兄弟姉妹となっています。
- 配偶者と子が相続人の場合:配偶者2分の1、子2分の1
- 配偶者と直系尊属が相続人の場合:配偶者3分の2、直系尊属3分の1
- 配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合:配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1
- 同順位の法定相続人が複数いる場合:人数に応じて均等割
(例:子が3人いる場合は、ひとりの子につき3分の1ずつ相続)
例えば、とある男性が妻と子ふたりを残して亡くなり、死亡時に100万円の借金があった場合には、妻が50万円、子がひとり25万円ずつ借金を引き継ぐこととなります。
相続した借金の支払い義務の性質は、連帯債務ではなく分割債務となります。そのため、引き継いだ借金の金額の範囲内でのみ責任を負えばよく、債権者が全額の支払いをするよう求めてきても、これに応じる必要はありません。
3 相続人が借金を払いたくない場合
亡くなった人が残していった借金が多額の場合や、残していった預貯金などを超過する場合には、相続人としては、これを支払いたくないでしょう。
このような場合には、以下の方法を採ることができます。
3-1 相続放棄
相続人が亡くなった人の借金を支払いたくない場合に選択される方法のひとつに相続放棄があります。以下では、相続放棄について解説します。
3-1-1 相続放棄とは
相続放棄とは、相続の際に被相続人の資産や負債などの財産全てに対する権利や義務を一切引き継がずに放棄することです。借金を引き継ぐこともないため、相続放棄をすれば支払いをしなくても済むこととなります。
3-1-2 相続放棄の手続
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に裁判所に相続放棄の申述の手続をする必要があります。
相続放棄の申述が受理されれば、裁判所から申述受理通知書というものが送付されます。相続放棄をしたことの証明が欲しい人は、裁判所に申請することにより、申述受理証明書というものを交付してもらうことができます。
亡くなった人の債権者から支払いの請求が来ても、申述受理通知や申述受理証明書を示すことにより、その後一切の請求を免れることができます。
3-1-3 相続放棄の注意点
最初にも述べたとおり、相続放棄は、亡くなった人の相続財産を一切引き継がずに放棄することです。そのため、借金だけでなく、預貯金や不動産などのプラスの財産も引き継ぐことができなくなってしまいます。
相続放棄をすべきケースは、相続財産が明らかにプラスの財産よりも負債の方が大きいケースや、相続人間で相続財産をめぐる激しい争いがあり巻き込まれたくないケースなどに限られます。
プラスの財産に対して、借金が少額のケースや、親族間で穏便に相続の話し合いができるようなケースでは相続放棄をしない方が利益が大きいので、気をつける必要があります。
3-2 限定承認
亡くなった人の借金を支払いたくない場合に選択できるもうひとつの方法として、限定承認があります。
3-2-1 限定承認の概要
限定承認とは、プラスの財産の金額を上限として、その範囲内で負債を相続するという方法です。
借金については、預貯金などのプラス財産の額を上限として弁済を行うため、借金総額がプラス財産の総額を超えていたとしても、相続人が自分の財産を拠出して、被相続人の借金を返済する必要がありません。
具体例で説明すると、例えば、相続財産が500万円の預金と1000万円の借金のみであった場合、限定承認をすれば、500万円の預貯金と500万円の借金のみを相続することができるということです。
限定承認は、相続人が複数いる場合には相続人全員で行う必要があります。相続人のひとりが単純承認を選択した場合には、限定承認をすることができなくなります。
なお、相続人の中で相続放棄をした人がいても最初から相続人でなかったこととなるため、この場合には残った相続人で限定承認することができます。
3-2-2 限定承認のメリット
限定承認のひとつめのメリットは、プラス財産よりも借金の方が多かった場合には、超過した分について借金を支払う責任を負わないことです。
また、取得しないと相続人の生活に支障が出る相続財産については、相続人が債務者よりも優先して買い取ることができる先買権という権利が認められている点も挙げられます。
3-2-3 限定承認のデメリット
限定承認の最大のデメリットは、時間と手間がかかることです。
まず、相続人調査をした後、全ての相続人で話し合いをして、相続放棄をした相続人を除いた全相続人で、家庭裁判所に限定承認の申立てを行います。
申立てが受理されたら清算手続が行われますが、その際に官報で公告を行い、債権者に権利の申し出を促します。
公告期間経過後に、申し出のあった債権について、相続財産の範囲内で、弁済や清算を行います。
そのため、限定承認にかかる期間はトータルで1年以上に及ぶことも少なくありません。
もうひとつのデメリットとして、限定承認をした場合でも、亡くなった人が連帯保証人だった場合にはその地位が引き継がれることが挙げられます。
また、限定承認による財産の移動は、税制上、亡くなった人から相続人に時価で財産が売却されたとみなされ、みなし譲渡所得税が発生する場合があります。
3-2-4 限定承認はどのような場合にすべきか
限定承認をすべきケースとしては、まず、プラスの財産が比較的高額な場合が挙げられます。
先ほども述べたように、限定承認には金銭や手続の負担があるので、プラスの財産が少額の場合にはメリットが少なく、相続放棄をした方が良いといえます。
もうひとつは、どうしても残したい財産(実家や家業を引き継ぐための資産など)がある場合が挙げられるでしょう。
4 慎重な判断のために弁護士に相談
亡くなった人に借金があった場合、相続放棄するのか、限定承認するのか、あるいは単純承認してそのまま相続するのかは、判断が難しいことがあります。
どれだけの借金があるのか、プラスの財産にどのようなものがあるのか、相続人の所在は明らかなのかなど、様々な事情を考慮して進める必要があります。
また、相続放棄は相続開始を知ったときから3か月以内にすることが原則であるため、被相続人が亡くなり、借金があることがわかったら、迅速に手続選択をする必要もあります。
相続放棄や限定承認は、家庭裁判所に申立が必要で、戸籍の取得や書類の作成など、煩雑で手間がかかります。
どのような手続が適切かの判断や裁判所への手続は、専門的な知識や経験がないと難しいものです。
そのため、亡くなった人に借金があった場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
当事務所は、亡くなった人に借金があった場合の相続手続に詳しい弁護士が在籍しており、状況に合わせて適切な手続をご提案して解決することが可能です。
どうぞ、お気軽にご相談ください。